休憩時間中における労災の取り扱いについて
まず原則論として労働災害,すなわち,労働者が泥酔状態や故意で事故を起こしたときは労災認定を受けることはできない。
では,労災が認められる要件とは何なのか??
結論からいうと,その災害に「業務遂行性(業務遂行中に起こったか否か)」と「業務起因性(業務が原因か否か)」が認められる場合に「労災」として認定される。
具体的に事例で説明すると,
たとえば休憩時間中に野外で弁当を食べているところ「上司が手が汚れたので水を汲んできて欲しい」といわれ,付近の奇麗な川まで水を汲みに行った際に毒蛇に噛まれたときは労災として認定される。なぜなら,本来なら休憩時間中(業務をしないことが保障された時間をいう。)の事故なら労災認定されないが,休憩時間中に上司から水を汲むよう頼まれたので「業務起因性」が認められ,また水を汲んでいる最中に蛇に噛まれたのなら「業務遂行性」が認められる。よって,業務遂行性と業務起因性の両者の存在が認められるので「労災認定」される,というわけだ。
では次のような場合は労災認定されるのか?
営業マンであるAが関与先を訪問しているところ,関与先の従業員Bが誤ってストーブを足で倒してしまい付近の紙まで火が及び火災になろうとしていたので,AはとっさにBのためにフォローをしようとして濡れタオルを使って火災を防ごうとしたところ,こぼれた灯油に火が引火してしまっていたので思いのほか火が大きく,消火活動を手伝ったAまで重い火傷を負い負傷してしまった。
上記のようなケースだと,まずAの火傷は関与先に訪問していたときの負傷なので「業務遂行性」は存在する。
しかし,善意で助けたとはいえ,関与先の火災に対する消火活動を手伝ったわけだから,当該消火活動はAを雇用する会社(使用者)が消火指示をしたわけではなくA個人が善意で行ったもだから個人活動にあたり,よって当該行為は業務ではないので「業務起因性」は存在しない。
そのため,たとえBが業務上訪問した関与先のために消火活動を手伝ったとしても「業務遂行性」と「業務起因性」の双方が認められないため,労災認定されない。
では,昨年起きた「京都アニメ事件」により負傷し,または死亡した人たちは「労災認定」されるのか?
これは非常に難しい問題であるが,当職は次のように考える。
まず,当該事件は負傷等した労働者が働いている間の環境下で起きた事件のため「業務遂行性」は認められる。
しかし,もし放火した者(以下,「加害者」という。)が,放火する場所を問わず「どこでも良いから建物に火を点けて一緒に死んでやる」という思いで放火したのなら「業務起因性」が認められないので労災認定されないだろう。
逆に,加害者が『京都アニメに対して寄稿したものが京都アニメで部分的に採用され作品として放映又は出版された』と思い込んで恨みに思い,その怨恨で京都アニメを放火したのなら話は別で,このような場合は「業務起因性」が認められ,よって労災認定されることになる。
当職の個人的な考えとしては,どちらにしても悲惨な事故であったので,負傷や死亡という事実はもう変わらないのだから,負傷者や遺族のためにもどうせなら後者の例であって欲しいと思う今日この頃である。