同一労働同一賃金の最高裁判例要旨

同一労働同一賃金に関わる最高裁判例はこれまでいくつか出ていますが,その中でも「メトロコマース事件(令和元年10月13日判決)」についてご紹介したいと思います。

この判例は,正社員,契約社員A及び契約社員Bという雇用形態があり,原告であった契約社員Bが退職金を求めて訴訟を提起したというものです。
今回はその最高裁の判断の要旨について簡潔に説明したいと思います。

まず「契約社員A」と「契約社員B」の違いは次の通り。
[契約社員A]
①店舗での業務に従事し,正社員と同様に代務業務をすることがあった。
②無期雇用労働契約であった(但し,H28年3月までは1年の期間雇用であった)
③契約社員Bからの「キャリアアップ」の雇用形態の位置づけであった。
④店舗での配属のみで,いわゆる「職務限定型」であった。
⑤月給制で,月例賃金は月額16.5万円で,これに加えて通勤手当や残業代が支給され,本人の勤務成績等による昇給制度があった。
⑥賞与は年2回で,年額59.4万円であった。
⑦契約社員Bと異なり,退職金制度が存在していた。※但し,H28年3月までは退職金制度はなかった。
⑧正社員への登用制度があり,現実に登用実績があった。

[契約社員B]
①店舗での業務に従事しても代務業務にあたることはなかった。
②契約社員Aが無期雇用であるのに対し,契約社員Bは「1年以内の有期雇用で更新制」であった。
③契約上限は65歳であった。
④業務の場所を命ぜられることはあっても,配置転換や出向を命ぜられることはなかった。
⑤時給制で,本給,通勤手当及び残業手当が支給されていた。
⑥賞与は年2回で,1回について12万円ずつ支給されていた。
⑦契約社員Aには退職金制度はあったが,契約社員Bには退職金制度はなかった。
⑧契約社員Bへの登用制度があり,現実に登用実績があった。

労働条件の背景と概要は以上の通りですが,原告の契約社員Bは,退職金を求めて会社側と争ったわけです。
結論・判決は,「会社は原告側の契約社員Bに対して退職金を支払わないことは,不合理ではない。」というものでした。

その理由は次の通りで,判決文が非常に長いので,私の方で蛇足をとり,これを簡潔にまとめてみました。

まず,被告である会社(以下,使用者という。)は,正社員としての職務を遂行し得る人材の確保や定着を図るなどの目的から,様々な部署等で継続的に就労することが期待される正社員に対し退職金を支給することとしたものといえる。 そして,原告ら契約社員Bと比較対象となった売店業務に従事する正社員については,概ね両者の業務は共通するものの,正社員は,販売員が固定されている売店において休暇や不在の販売員に代わって早番や遅番の業務を行う代務業務を担当していたほか,複数の売店を統括し,売上向上のための指導,改善業務等の売店業務のサポートやトラブル処理,商品補充に関する業務等を行うエリアマネージャ業務に従事することがあったのに対し,契約社員Bは売店業務に専従していたものであり,両者の業務の内容に一定の相違があったことは否定できない。
また,売店業務に従事する正社員については,業務の必要により配置転換等を命ぜられる現実の可能性があり,正当な理由なくこれを拒否できなかったのに対し,契約社員Bは,業務の場所の変更を命ぜられることはあっても,業務の内容に変更はなく,配置転換等を命ぜられることはなかったものであり,両者の職務内容及び配置の変更の範囲にも一定の相違があったことは否定できない。
さらに使用者は,契約社員A及び正社員への段階的に職種を変更するための開かれた試験による登用制度を設け,相当数の契約社員Bや契約社員Aをそれぞれ契約社員Aや正社員に登用していた。 以上のこれらの事情については,原告である契約社員Bらと売店業務に従事する正社員との労働条件の相違が不合理と認められるか否かを判断するにあたり,労働契約法第20条の「その他の事情」として考慮するのが相当である。
そうすると,使用者の正社員に対する退職金が有する複合的な性質やこれを支給する目的を踏まえて,売店業務に従事する正社員と契約社員Bの職務の内容等を考慮すれば,契約社員Bの有期労働契約が原則として更新するものとされ定年が65歳に定められるなど,必ずしも短期雇用を前提としていたものとはいえず,原告ら契約社員Bがいずれも10年前後の勤続期間を有していることを斟酌しても,両者の間に退職金の支給の有無に係る労働条件の相違があることは不合理であるとまで評価することができるものとはいえず,契約社員Bである原告らに対して退職金を支給しないという労働条件の相違は,労働契約法第20条にいう不合理と認められるものにあたらないと解するのが相当である。

以上の通りです。
同一労働同一賃金とは,いかような場合でも正社員と非正規労働者との労働条件の相違を統一しなければならないわけではなく,両者の労働条件の相違に一定の合理的な理由があれば,当該相違は法的に認められるという典型的な判決でした。企業の皆様においてもこのように判決を研究せねばなりませんね。
但し,これはくまで「労働契約法」で争った最高裁判例のため,2020年4月(中小企業は2021年4月)に施行された「パート・有期雇用労働法」の条文を根拠とした判例ではありません。よって,この判決を過信することは禁物だということは否定できません。


昨年はコロナが原因で関与先の働き方改革に着手の目途があまりたちませんでしたが,今年の春から一気に着手しているところで現状,日々奮闘しているところです。
いま色々と仕事しながらイライラし,ふと気分転換にと思い,ブログを更新しているところです。